中村一美個展

Kaikai Kiki Galleryにて中村一美個展を観た。国立新美術館の展示にはただただ圧倒された。そして、やっぱり今回の展示にも圧倒された。『庵IX』を写真でみると、黒い斜線の重なりだけの平らな絵にみえるかもしれない。けど、実物をみると、絵の具の厚みやストローク跡から、決してフラットな方法論や計算で描かれたものでないことが分かる。これはモンドリアンやロスコの実物をみたときと同じ感想だった。やっぱり絵は実物を観るべきだと改めて思った。
同じシリーズ(「斜行グリッド」)のなかでも、キャンバスの大きさや形、絵の具の種類などが違っていて、そのことによって生じる各作品の関係性もすごく繊細で力強かった。例えば、『絵巻14』、『絵巻13』、『絵巻16』は斜行グリッドというモチーフを共有しているので、「似たような絵」にみえる。けど、絵の具が油彩とアクリルで違うので絵の表情も微妙に違う。その微妙な差異にドキッとさせられる。
そして、アクリルで描かれた作品が油絵にみえることもあるし、その逆もある。『絵巻18(親鸞上人絵伝)』や『絵巻17(一遍聖絵)』は油絵にしかみけなかったけど、アクリルだった。どのように描かれたか予測できるかもしれないけど、実際に描ける気がしない。本物は凄い。
1つ1つの作品にAuthenticityを宿らせようとする西洋の近代絵画とは違って、中村一美さんの絵は、複数の絵の関係性を大事にしてると思った。もちろん、1つ1つの作品のなかにある技術や熱は物凄いものがある。でも、やはり欧米の大きな抽象画とは何かが違う。自己主張はしている。けども、同じモチーフのなかで、お互いの作品が呼応しあって会場に不思議な磁場を作っている。これは、先に同ギャラリーで展示された李禹煥さんの作品にとても似ていると感じた。
それが日本的な方法なのか、それともアートでよくあることなのか、分からない。けど、どこか安心する、居心地のいい高揚感があった。
『透過する光 中村一美著作選集』という本があるらしいので読んでみたい。